大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成7年(ワ)12991号 判決 1999年3月09日

島根県出雲市今市町一四三三番地

原告

学校法人星野学園

右代表者理事

星野實

右訴訟代理人弁護士

浅田憲三

大阪市天王寺区城南寺町八番二二号

被告

株式会社スリーエム

右代表者代表取締役

橋本武比古

右訴訟代理人弁護士

上原洋允

小杉茂雄

水田利裕

市瀬義文

右補佐人弁理士

安田敏雄

吉田昌司

喜多秀樹

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二億円及びこれに対する平成八年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告は、左記の特許権(以下「本件特許権」といい、特許請求の範囲記載の発明を「本件発明」という。)を、存続期間が満了する昭和六一年一月一五日まで有していた。

登録番号 特許第六九〇八六八号

発明の名称 衿腰に切替えのある衿

出願日 昭和四一年一月一五日(特願昭四一-二三四三号)

公告日 昭和四七年一一月七日(特公昭四七-四四〇五八号)

登録日 昭和四八年五月二四日

特許請求の範囲 別添特許公報の「特許請求の範囲」記載のとおり

(二)  本件発明は、構成要件を分説すると次のとおりである。

A 上りの前はし線と任意な衿の折り返し線3との交点をDとし、D点を通り前衿ぐり線Eに引いた切線との交点をTとすると共に

B 該点Tから前記折り返し線3に垂線を下して交点を12となし、

C 点12より衿の折り返り線3の延長線上に点Tから最深み点までの長さに等しい長さで点13をとり、

D 更に該延長線上に点13より衿腰の高さに等しく点14をとり、

E 該点13を中心にして点13、14間の長さを半径とする円弧を描き、該円弧上に点14より「(弧度区間×片身分衿付円と衿外回り円の円周差)+(弧度区間×衿腰の片身分上下円周差)」の長さに等しく衿折り返り線側に点15をとり、

F 点13と15を結びその延長線上に点13からの長さが最深み点から後衿ぐり中心までの長さに等しくなるように点16をとり、

G 該点16を通り点13、16を通る線に直交する線を引き、この線上に点16から衿腰の高さに等しく点17をとり、

H その反対側に衿幅に等しく点18をとると共に、

I 点17及び18より点16、13を通る線に平行な線を引き、

J 次いで点12と16をなめらかな線で結び、次に、前記点13を中心とし点14までを半径とする弧線上に点14より(弧度区間×衿腰の片身分上下円周差)の長さに等しく衿外回り側に点22をとり、

K 点13と22の延長線上に点13、16間の長さに等しく点23をとり、

L 点13、23を結ぶ線に直角に引いた線上に衿腰の高さに等しく点24を衿付側にとり、

M 該点24より点23と13を通る線に平行に引いた線上に点23、13間の長さに等しく点25をとると共に、線25と点Tからの前衿ぐり線Eと総合して曲線で結ぶことにより点T、24間の曲線の長さにより衿腰の付け線の長さを得、

N 次いで点23及び点16よりやや内側に点23及び点16をとり、該点23、16より点Tに至る折り返り曲線に沿った曲線を引いて上り切替線を形成する

O ことにより得られる衿腰に切替えのある衿。

2(一)  被告は、昭和五九年三月一日から本件特許権が存続期間の満了により昭和六一年一月一五日に消滅するまでの間、別紙イ号製品説明書記載の衿(これを使った甲三八の紳士服を以下「イ号製品」という。)と構造が同じ衿の紳士服を製造販売していた。

(二)  イ号製品の衿の構成を分説すると次のとおりである。

a 上りの前はし線と任意な衿の折り返し線3との交点をDとし、D点を通り前衿ぐり線Eに引いた切線との交点をTとすると共に

b 該点Tから前記折り返し線3に垂線を下して交点を12となし、

c 点12より衿の折り返り線3の延長線上に点Tから最深み点までの長さに等しい長さで点13をとり、

d 更に該延長線上に点13より衿腰の高さに等しく点14をとり、

e 該点13を中心にして点13、14間の長さを半径とする円弧を描き、該円弧上に点14より「(弧度区間×片身分衿付円と衿外回り円の円周差)+(弧度区間×衿腰片身分上下円周差)」の長さに等しく衿折り返り線側に点15をとり、

f 点13と15を結びその延長線上に点13からの長さが最深み点から後衿ぐり中心までの長さに等しくなるように点16をとり、

g 該点16を通り点13、16を通る線に直交する線を引き、この線上に点16から衿腰の高さに等しく点17をとり、

h その反対側に衿幅に等しく点18をとると共に、

i 点17及び18より点16、13を通る線に平行な線を引き、

j 次いで点12と16をなめらかな線で結び、次に、前記点13を中心とし点14までの長さを半径とする弧線上に点14より(弧度区間×衿腰片身分上下円周差)の長さに等しく衿外回り側に点22をとり、

k 点13と22の延長線上に点13、16間の長さに等しく点23をとり、

l 点13、23を結ぶ線に直角に引いた線上に衿腰の高さに等しく点24を衿付側にとり、

m 該点24より点23と13を通る線に平行に引いた線上に点23、13間の長さに等しく点25をとると共に、線25と点Tからの前衿ぐり線Eと総合して曲線で結ぶことにより点T、24間の曲線の長さにより衿腰の付線の長さを得、

n 次いで点23及び点16よりやや内側に点23及び点16をとり、該点23、16より点Tに至る折り返り曲線に沿った曲線を引いて上り切替線を形成する

o ことにより得られる衿腰に切替えのある衿。

3  イ号製品の衿を本件発明と対比すると、構成aは構成要件Aを、構成bは構成要件Bを、構成cは構成要件Cを、構成dは構成要件Dを、構成eは構成要件Eを、構成fは構成要件Fを、構成gは構成要件Gを、構成hは構成要件Hを、構成iは構成要件Iを、構成jは構成要件Jを、構成kは構成要件Kを、構成lは構成要件Lを、構成mは構成要件Mを、構成nは構成要件Nを、構成oは構成要件Oをそれぞれ充足するので、イ号製品の衿は本件発明の技術的範囲に属する。

4  本件発明の実施料は三%が相当であるところ、被告は、原告の承諾を得ずにイ号製品を製造販売し、二〇〇億円の売上を得た。したがって、被告は、被告製品の製造販売により、六億円の実施料相当額を利得し、原告は同額の損失を被った。

5  よって、原告は、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき金二億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成八年二月二一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)、(二)は不知。

2  同2(一)、(二)、同3及び同4は否認又は争う。被告は、本件特許権の存続期間の満了日前に、イ号製品はもちろん、およそ衿腰に切替えのある衿を使った紳士服を製造販売したことはない。また、右存続期間の満了日より後には、衿腰に切替えのある衿を使った紳士服を製造販売したが、その衿は、本件発明の技術的範囲に属しない方法で製造した。

三  抗弁(時効による一部消滅)

1  原告は、本件訴訟を平成七年一二月一九日に提起したのであるから、仮に不当利得返還請求権が発生していたとしても、昭和六〇年一二月一九日以前については一〇年が経過している。

2  被告は、右時効を援用する。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  まず、甲第二号証によれば、原告が本件特許権を有していたこと及び本件発明を構成要件に分説すると、請求原因1(二)記載のとおりであることが認められる。

二1  原告は、被告が昭和五九年三月一日から本件特許権が存続期間の満了により消滅した昭和六一年一月一五日までの間、イ号製品と同じ構造の衿を使った紳士服を製造販売していたところ、イ号製品は本件発明の技術的範囲に属するので、被告は右期間内に本件特許権を侵害していたものであると主張するのに対して、被告は、そもそも右期間内にイ号製品を製造販売したことはないと主張する。

2  証拠(甲二、三六、三八)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一)  原告は、平成三年一〇月一五日、被告心斎橋本店(大阪市中央区所在)で、一九八六年と刻まれたプラスチック製のプレートがつけられているイ号製品(甲三八)を購入し、右イ号製品から衿の型紙をとって、別紙イ号説明書添付の図面を作成した。右紳士服の衿には、衿腰に切替えのある衿が使われている。

(二)  本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の「発明の詳細な説明」の欄には、「本発明は弧度の性質を利用した衿腰に切替えのある衿に関するもので、従来の感覚的な工程にたよるしか方法のなかった衿の構成法を作図によって完成させようとするものである。」(本件公報1欄20行~23行)、「近年各種化学繊維の発達で新しい特徴を備えた服地が出廻っているが、その中で伸縮性のないことで利点のあるものは、縫製工程において従来の技術では達成し得ない多くの問題をかかえている。」(同1欄28行~32行)、「第3図に示す従来の背広服衿では、元型で裁断した用布を熱処理操作で衿付線Aと衿外廻り線Cを伸し、折り返り線Bを縮めて型ずけしている。また大量生産の場合は同時に前記各線A、B、Cを処理するプレス機を用いて型ずけしている。ところが伸縮性のない生地や、地の目関係でその伸縮性に限度をもつ生地では、前記元型で裁断しても前記熱処理では衿付け、折り返り、衿幅廻りの各ラインに必要な長さと曲率の関係が得られず全く不能になる。」(同1欄32行~2欄4行)、「本発明は弧度の原理を利用することにより、前記衿寸法の相関関係を数式によって表わし、デザインする予定の形はその各部衿寸法の数量関係で記録し、何でもズバリ中間技術を労せず作図して求めるようにした又はその他の応用操作で上記目的を果たすために衿腰に切替えを設けた衿を提供せんとするものである。」(同2欄5行~12行)と記載されている。

3(一)  原告は、第一に、イ号製品の衿は、本件発明の技術的範囲に属するところ、右イ号製品には一九八六年(昭和六一年)と刻まれたプレートがついていることから、同年に製造されたものである、仮にそうでないとしても、特許期間中に被告が製造していた紳士服の衿はイ号製品の衿と同じ構造であるから、原告が主張する期間内に被告が本件発明を実施していたことは明らかであると主張する。

確かに、右2(一)のとおり、イ号製品には一九八六年と刻まれたプラスチックのプレートがついている。しかし、右プレートには、「THE WORLD'S FINEST CLOTH FROM Farsio ESTABLISHED BY 1986」と刻まれており(同様の表示は、右前身頃裏にもある。)、このような表示は当該ブランドの開始年を表示する趣旨であるのが通常であって、これが右製品の製造年を示していると認めるに足りる証拠はないから、イ号製品が昭和五九年三月一日から昭和六一年一月一五日までの間に製造されたものであるかは不明であるといわざるを得ない。殊に、原告がこれを入手したと主張する平成三年一〇月一五日は既に製造から五年を経過していることになるところ、衣類は年毎に形や色、素材の流行が変わること、保管中に少しずつ生地が劣化していくことは避けられないこと、保管費用がかかること等の事情を考慮すると、製造から五年を経過した紳士服がなお、市場で新品として販売されているとは考えにくい。むしろ、イ号製品は右期間内に製造されたものではないとみるのが合理的である。

また、そもそもイ号製品の衿の構造、形状と、昭和五一年三月一日から昭和六一年一月一五日までの間に被告が製造販売していた紳士服の衿の構造、形状とが同じであることを認めるに足りる証拠もない。

したがって、イ号製品が昭和五九年三月一日から昭和六一年一月一五日までの間に製造されたものであることも、イ号製品の衿の構造、形状が昭和五一年三月一日から昭和六一年一月一五日までの間に被告が製造販売していた紳士服の衿の構造、形状と同じであることも認めることはできないのであるから、イ号製品の衿が本件発明の技術的範囲に属するか否か判断するまでもなく、原告の主張は採用できない。

(二)  第二に、原告は、本件発明が創作される前は縫製工程でアイロンを用いた熱処理で型づけをして衿の形を整えていたところ、ここ三〇年くらいの間に紳士服の生地として伸縮不能のものが使われるようになったことから、従来の熱処理技術で型づけをして衿の形を整えることができなかったはずであるにもかかわらず、被告が業績を伸ばしているのは、被告が製造販売していた紳士服の衿の形が整っていたからであり、形の整った衿の工法は本件発明のほかにはなかったのであるから、被告が昭和五九年三月一日から昭和六一年一月一五日までの間、本件発明を実施して紳士服を製造販売していたことは明らかである旨主張する。

確かに、本件明細書には、前記2(二)のとおり、伸縮性に限度のある生地では、従来の熱処理の工法による衿の製作が不能であったこと、本件発明により、衿のデザイン自体を衿寸法の相関関係を数式によって表し、作図で求めることができるようになったことの記載があることが認められ、これらの記載を総合すると、本件発明によって伸縮性に限度のある生地についても形の整った衿の製作ができるようになったことが推認される。

しかしながら、本件明細書に記載されているのは、あくまでも本件発明の出願当時の技術水準であるところ、前記のとおり、本件発明は昭和四一年の出願であるのに対し、本件で問題となっているのは昭和五九年から昭和六一年にかけての期間であるから、本件発明によって伸縮性に限度のある生地についても形の整った衿の製作が可能になったからといって、直ちに、昭和五九年から昭和六一年にかけての期間中も、本件発明の外に、伸縮性に限度のある生地についての形の整った衿の工法がなかったと推認することはできない。また、当時、被告が紳士服の製造に使用していた生地がどのようなものであったかを明らかにする証拠はなく、被告が伸縮性に限度がある生地を使用して紳士服を製造していたことを認めるに足りる証拠もないから、被告が右期間中に業績を伸ばしていたからといって、その製造する紳士服の衿が本件発明の衿と同一のものであることにはならない。

原告は、イ号製品の衿が本件発明の技術的範囲に属する以上、被告側が本件発明の代替技術を示すべきであり、これを示すことができない本件においては、イ号製品は、本件発明の存続期間中である昭和五九年から昭和六一年にかけて、被告が本件発明を実施していたことを示すに十分な証拠である旨主張する。しかしながら、仮にイ号製品の衿が仮に本件発明の技術的範囲に属するものであったとしても、前記のとおり、本件特許権は既に昭和六一年一月一五日に存続期間満了により消滅しているから、その後であれば何人でもその実施をすることが許されていること、また、前記のとおり、原告が主張するイ号製品の購入日(平成三年一〇月一五日)は本件特許権が消滅してから既に五年が経過しており、イ号製品が右期間内に製造されたものであるとは言い難いことからすると、原告の主張には飛躍がある。

よって、この点においても、原告の主張は採用できない。

三  以上の次第で、抗弁について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから、これを棄却する。

(平成一〇年一一月一〇日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 瀬戸啓子)

<51>Int.Cl. A 41 d <52>日本分類 121 B 21 日本国特許庁 <51>特許出願公告 昭47-44058

<10>特許公報 <44>公告 昭和47年(1972)11月7日 発明の数 1

<54>衿腰に切替えのある衿

<21>特願 昭41-2343

<22>出願 昭41(1966)1月15日

<72>発明者 出願人に同じ

<71>出願人 星野賓

出雲市今市町1433

代理人 弁理士 唐木貴男

図面の簡単な説明

図面は本発明の実施例を示すもので、第1図は背広服を裏側からみた斜視図、第2図は第1図の衿から衿腰部分を取外した状態を示す説明図、第3図は従来の背広服上衿の平面図、第4図イ、ロ、ハニ、ホは衿成立の要素(因子)の一つYの作図計算法説明図、第5図、第6図及び第7図は夫々本発明における作図法の説明図、第8図は衿の要素(因子)の一つtを解説する説明図である。

発明の詳細な説明

本発明は弧度の性質を利用した衿腰に切替えのある衿に関するもので、従来の感覚的な工程にたよるしか方法のなかつた衿の構成法を作図によつて完成させようとするものである。

一般に衿のスタイルは衿刳り円周上で、衿つけ線、折り返り線、衿幅外まわり線のお互いの円周差のちがいと、円周差現象を生ずる衿廻り部分の大小と及びその最深み点の以上衿寸法で決るデザイン現象ということができる。近年各種化学繊維の発達で新しい特徴を備えた服地が出廻つているが、その中で伸縮性のないことで利点のあるものは、縫製工程において従来の技術では達成し得ない多くの問題をかかえている。即ち、第3図に示す従来の背広服衿では、元型で裁断した用布を熱処理操作で衿付線Aと衿外廻り線Cを伸し、折り返り線Bを縮めて型ずけしている。また大量生産の場合は同時に前記各線A、B、Cを処理するブレス機を用いて型ずけしている。ところが伸縮性のない生地や、地の目関係でその伸縮性に限度をもつ生地では、前記元型で裁断しても前記熱処理では衿付け、折り返り、衿幅廻りの各ラインに必要な長さと曲率の関係が得られず全く不能になる。

本発明は弧度の原理を利用することにより、前記衿寸法の相関関係を数式によつて表わし、デザインする予定の形はその各部衿寸法の数量関係で記録し、何でもズパリ中間技術を労せず作図して求めるようにした又はその他の応用操作で上記目的を果すために衿腰に切替えを設けた衿を提供せんとするものである。

以下原理の弧度で行う実施例により本発明を説明すると、第1図は背広服の裏側からみた斜視図を示し、1は上衿の表、2はラペル見返し側、3は衿の折返り線、4は衿付け線、5は衿の切替え線である。第2図は第1図の衿の切替え線5から衿腰部分6を取外した状態を示すものである。なお切替線5は折返り線3より約0.5cm(半径差)ばかり内側になるから、外周差(材料の厚味で生ずる折り返り線上での衿幅と衿腰の内と外の寸法差)は実際の切替線上では半径差に比例して解決しているため、全体切替線は平に縫い合わせる。

第4図イ、ロ、ハ、ニ、ホは衿付円と衿外回り円の円周差を計上するためその半径差の作図法と円周差の起る区間の作図と計算法を示し、点線は任意な背広服の展開図形を示すものである。図においてFは胴幅線に対して垂直関係の前中心基礎線、F’は胸ぐせや、乳ぐせ量のために展開図面でFラインに対して斜めにはみ出した上りの前はし線である。Nは衿ぐり線Eと上りの前中心線F’との交点のあごぐり点、Pは上りのネツクボイツト、Sは前後の肩傾斜の和の1/2で、上りのネツグボイントPを通り総合肩傾斜度に合わせて引かれた線である。第4図イにおいて衿止り寸法はF’ラインと衿の折返り線との交点Dより前記あごぐり点Nまでの寸法である。ところでこのD点はF’ラインと任意な衿の折返り線との交点であるからその位置によつてイ図のように引いたD点から衿ぐり線Eへ切線を入れたその切点Tの位置は動く。ここで衿ぐり線Eに前記交点Dより切線を引きその切点Tを入れ、後衿ぐり中心をGとすると、TからGまでの曲線は衿腰と折衿に円周差の生ずる区間の衿つけ線となる。そこで全体の衿ぐり線Eに対するこの区間のす百分比を求めその答をt%とすると、

<省略>

となる。

弧度区間とは第4図イにおいてF’ライン上の衿止り点Dから衿ぐり線Eに引いた切線Tから、後衿ぐり中心Gまでの曲線区間と半円周との割合である。この曲線区間の割合すなわち弧度区間は衿止り寸法DN間の長さが詰まれば、大きくなり、長いときは反対に縮るがこの性質を第8図について説明する。第8図においてOを衿刳り円の中心、Gをその円周上での後中心点、Nをあごぐり点、DとD1は各々上りの前中心F’ライン上の任意の衿止り点とする。ところで円の直径GN線を境にした半円周上において、その半径ON線の延長線上の任意点D1から引いた切線D1T’は、その点D1が円に近ずくと切線DTの如く短かくなり、それと逆に後方曲線部分GTの長さは長くなる。この関係は円周上の接点TとT’から半径ON線に下した垂直TQ,T'Q'を底辺とする直角三角形DTQ及びD'T'Q'を考えると、半円周は直角三角形に囲れた部分と、弧度区間の二つの部にわけられこの直角三角形に囲まれた円周部分は、斜線を軸として反転する衿部分である。これを弧度区間に対して反転区間と言う。このとき弧度区間の大きいデザインは反転区間は小さくなり、反転区間の大きいデザインの衿は弧度区間がせまくなることがわかる。したがつて弧度区間の値tはズパリの作図の重要データとなるから正確に計上することになる。

さてこのtを例えば次の実数で計算してみる。GとT間の曲線の長さが示す弧度区間の衿つけ線を13.3cmとし、衿ぐり線Eを23.8cmとすると(13.3cm+23.8cm)×100=56%強となる。すなわちtは56%の答が得られる。

次に第4図の訂正した補正図面ロにおいて任意な衿付円と衿外回り円の円周差を計上する。すなわち着用した時の衿つけ同位線での片身分衿付円と衿外回り円の円周差Yを求める。先ず前中心基礎線FとS線との交点を8とし、8点よりF線の延長線上に衿腰の高さに等しい長さをとつてこの点を9とし、点9を中心とし衿幅を半径とした弧線と総合肩傾斜線Sとの交点を10となし、次に点8より垂直線を出して9、10を結ぶ線との交点を11とすると、△形9、8、11は直角三角形となる。底辺の8、11を結ぶ長さは、この場合衿付け同位線で言う衿付円と衿外回り円のなす円の半径差である。この直角三角形9、8、11の着用時の正面から見たとする位置を示すと、第4図ハの影線部分である。又それを頭上から断面図によつて8を通る衿付円と、衿つけ同位線8を通る水平線上での衿外回り円(11点を通る円)の関係を示すと、第4図ニの如く、肩上ではキヨリ(半径差8と11'間の寸法)を保つているが、後身と前身の部分では、両円は接近している。ところて一般に円(真円)の性質は

・2×半径×3.14=円周

上の関係にあるから、今度は第4図ホに示す2つの同心円の場合は、円周差は次の式で表わされる

・2×半径差×3.14=円周差

と言うことになる。そこで第4図ニに示す衿まわりでの同心円状の円周差を示すには、上の式では構造がちがうので、そのまま式があてはまらないのは図解でよくわかる。

つまりこの場合次の式で成立するのが実験によつて明らかになつた。すなわち

1×半径差×3.14=円周差

半径差とは、言うまでもなく第4図ハで示した肩上での8と11間の寸法である。すなわち直角三角形9、8、11の底辺の長さであり、これは真上から見た断面図第4図ニでは、8、11間の長さと同じである。

さて、この式の答で得た円周差は、これをYと言う略記号で表わす。そして作図は常に片身で行うからYの値は次の式から成立し用いる。

<省略>

上の式を例えば実数で計上すると、次の通りとなる。

点8と9間の衿腰の高さ=3cm

点9と10間の衿幅の長さ=3.8cm

S線の弧度で表わした前後平均肩傾斜度=<省略>ラジアン

点8と11を結ぶ直線(半径差)を1.4cmとするとYの値は次の計算となる

<省略>衿付円と衿外回り円の片身分円周差

次に任意の点PK(衿ぐりの最深み点)について説明する。一搬に最深み点PKはその弧度区間に1個ある背広のPKの位置は後衿ぐり線上に第4図イのように設けられる。ただし屈身首のPKは上りのネツクポイントPを用いる。このPKの位置は当然デザイン上で衿刳りの形と大きさで決る。本発明の作図例は第4図イの曲率区間点Tと点Gを結ぶ直線を引いてそこからの一番深みに定める。

さて次に衿腰の衿付け線と折り返り線の寸法差(衿腰の上下円周差)gについて説明する衿腰のスタイルは<省略>ラジアンに前記PKが作用したものである。第4図ロにおいて点8と9間の垂直線は前記円周差Yを計上するための衿腰の高さで、これは衿腰の上下円周差gを零と考えた上で求められたものである。

従つて衿腰が首に沿つた円錘台形の形をとるには、その傾斜の程度は衿腰の上下円周差gの数量で決る。これを例えば次の実数により計算する即ち、円錘台形の上下の2つの円の半径差を0.5cmとするとき、その前記円周差gはYで用いた円周率により

<省略>となる。

次に第5図乃至第6図により背広折衿を例に作図法について説明する。先ず折衿のスタイルを衿寸法の関係式でまとめると次のように表わされる。衿腰の寸法をaとすると

(A)析衿の曲率<省略>ラジアン

(B)衿腰の曲率

gは 頁の式の説明に同じすなわち<省略>ラジアン、上式において分母の衿腰の高さaセンチは第5図衿幅作図に用いる弧度の半径13-14となり、分子の(tY+tg)は第5図折衿弧度の弧長14-15となる。またもう1つ(B)項の分子(t×g)は第6図14-22の弧長を示す。

次に第5図において折衿の作図法について説明する。D点は第4図イと同様に衿止りにして、F'ラインと任意な衿の折返り線3との交点、T点はD点から前衿ぐり線Eに引いた切線との交点である。先ずT点から衿の折返り線3に垂線を下し、その点を12とすると、点12とT点との間の長さは衿腰寸法とする。点12とD点間の線は衿の折返り線3である。次に衿の折返り線3と点12との延長線上に点TからPKまでの衿ぐりの長さに等しい長さで点13をとると、点13は折り返り線の曲りのボブントとなる。更にその延長線上に点13より衿腰の高さに等しく点14をとり、点13を中心にして点13、14の長さを半径とする円弧を描き、該円弧上に点14より前記折衿弧度(tY+tg)の長さに等しく点15を衿折返り線側にとり、点13と15を結ぶ線の延長線を引く。つづいて同上に点13からの長さがPKから後衿ぐり中心Gまでの長さとなるように点16をとる。次いで点16を通り点13と16を通る線に直交する線を引き、該線上に点16から衿腰の高さ8-9にしく点17をとり、その反対側には衿幅9-10に等しく点18をとる。次に点17及び18から点16と15を結ぶ線に平行に18、20及び17、19線を引く。弧度区間の折り返り線は13、16間の直線と13、12間の直線とのなめらかに結ぶ線21とする。折り返り曲線はこの21線に沿つて描き肩上で9、10間の寸法を保つてラベルと総合デザインする。

次に第6図により衿腰に切替えを設け衿付け線と折り返り線との円周差を正すための作図法について説明する。この第6図の符号は第5図と同一とし、先ず点13を中心にし点14までの長さを半径とする弧線上に点14よりtg(tgの長さは前記実数例で計算するとg=0.785 t=56%……tg=0・44cmの答となる)の長さに等しく点22を衿外回り側にとり、点13と22を結ぶ線の延長線上に点13と16との間の長さに等しく点23をとる。次いで点13と23を結ぶ線へ直角に引いた線上に衿腰の高さ16-17に等しく点24を衿付側にとり、点24を通り点13と23を通る線に平行な線を引きこの線上に点13と23の間の長さに等しく点25をとり、つづいて点25にT点からの前衿ぐり線と総合した線で結ぶ。また点Tと点24の間の曲線の長さである衿付け線の長さは、第4図イのTから後中心までの衿ぐり線に等しく修正する。更に点12と16間のなめらかに結ぶ線21の長さが点12と23間の曲線と等しくなるように修正する。

次に第7図について上り切替線作図法を説明する。図中の点線部分は第6図における衿幅と衿腰の上り線総合図で、符号も共通である。実線は切替線を示す。即ち折衿側は衿の折返り線16よりやや内側(約0.5~0.7cm)に16’を求め、台衿側においても同じ、すなわち23から23’と同寸を下り点Tに納まるよう自然腺で結ぶと、この実線ラインが切替線となる。

特許請求の範囲

1 上りの前はし線と任意な衿の折返り線3との交点をDとし、D点を通り前衿ぐり線Eに引いた切線との交点をTとすると共に該点Tから前記衿の折返り線3に垂線を下して交点を12となし、点12より衿の折返り線3の延長線上に点Tから最深み点までの長さに等しい長さで点13をとり、更に該延長線上に点13より衿腰の高さに等しく点14をとり、該点13を中心にして点13、14間の長さを半径とする円弧を描き、該円弧上に点点14より〔(弧度区間×片身分衿付円と衿外回り円の円周差+(弧度区間×衿腰の片身分上下円周差)〕の長さに等しく衿折返り線側に点15をとり、点13と15を結びその延長線上に点13からの長さが最深み点から後衿ぐり中心までの長さに等しくなるように点16をとり、該点16を通り点13、16を通る線に直交する線を引き、この線上に点16から衿腰の高さに等しく点17をとり、その反対側に衿幅に等しく点18をとると共に点17及び18より点16、13を通る線に平行な線を引き、次いで点12と16をなめらかな線で結び、次に前記点13を中心とし点14までの長さを半径とする弧線上に点14より(弧度区間×衿腰の片身分上下円周差)の長さに等しく衿外回り側に点22をとり、点13と22の延長線上に点13、16間の長さに等しく点23をとり,点13、23を結ぶ線に直角に引いた線上に衿腰の高さに等しく点24を衿付側にとり、該点24より点23と13を通る線に平行に引いた線上に点23、13間の長さに等しく点25をと   に、点25と点Tからの前衿ぐり線Eと総合して曲線で結ぶことにより点T、24間の曲線の長さにより衿腰の付け線の長さを得、次いで点23及び点16よりやや内側に点23’及び点16’をとり、該点23’、16’より点Tに至る折り返り曲線に沿つた曲線を引いて上り切替線を形成することにより得られる衿腰に切替えのある衿。

引用文献

実公 昭40-33776

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

<省略>

第4図

<省略>

第5図

<省略>

第6図

<省略>

第7図

<省略>

第8図

<省略>

イ号製品説明書

分解図について

イ号製品のねかせ角の弧長の実測値が特許発明の要件tg+tYの算出値と一致することを証明するイ号図面について、該イ号図面を構成している各図形の意味を明らかにするため、原告提出の証拠「製品が本件特許発明の技術的範囲に属するか否か判断」(判断手法)の説明に準じ、四種の図面に分解し、解説したものである。

但し、検証時作成されたイ号図面は、該判断手法で述べた衿の型崩れしない性質に依存することだけでなく、製品の布地の織り柄地の目を平行にして生地を反物のときの状態に帰せば、製品各部は裁断時の形状(型紙)に帰ることをも踏まえて求めたものである。

図1は、イ号製品の展開図としての正確さを実測、点検する過程を示し、

図2は、該展開図で衿のねかせ角の弧長相当部位を特定、実測する過程を示し、

図3、4は、イ号製品に本件特許発明のねかせ角の算出過程を示すものである。

図1 イ号製品の展開図(公報第7図相当図)

衿腰衿付け線が付加された縫い代部分(斜線)内に隠れているので、前衿ぐりの一部と共に加筆した後、点名を付けた。

点12'=衿巾、衿腰の各衿折り返り線の分岐点

点T’=衿腰衿付け線と身頃衿ぐり線の分岐点

点G=身頃衿ぐりの後中心

点16、点23、点24は公報に準ずる。

衿巾側の衿折り返り線=曲線12'~16の長さ=15.8cm弱

衿腰側の衿折り返り線=曲線12'~23の長さ=15.8cm強

衿腰側の衿付け線=曲線T’~24の長さ=16.3cm弱

身頃側の衿ぐり線=曲線T’~Gの長さ=16.3cm強

以上のごとく、展開図としても整合性があり、正しく平面化されている。

図2 イ号製品のねかせ(公報第6図相当図)

点13=衿巾側衿折り返り線の点16を通る接線と、身頃ラペル折り返り線との交点 点14=13-14=衿腰の高さ(=23-24実測値を当てる)

点15=13を中心に衿腰を半径とする円と13-16の交点

点22=13を中心に衿腰を半径とする円と13-23との交点

以上の作図により、tg相当部位、tg+tY相当部位を請求の範囲に指定された位置に確定し、これを実測する。

tg 相当部位弧長=14~22=0.3cm強

tg+tY相当部位弧長=14~15=1.5cm

従って、

tY相当値=(14~15)-(14~22)

=1.5-0.3強

=1.2cm弱

この値が以下の3図から求めたYの値、及び、4図から求めたtの値の積tYと一致すれば、イ号製品の衿は、請求範囲に記載される位置に、記載される弧長を有する衿であるから、『得られる衿』である。

図3 星野作図のYの値の算出図(公報第5図相当図)

衿腰寸実測値=2.7cm

衿巾寸実測値=3.5cm

衿の断面図を作図する

点8=図1で前中心線Fと平均肩傾斜Sの交点・・・註)肩綿分減らす

点9=8-9=衿腰

点10=9を中心に衿巾寸を半径とする円と8を通る平均肩傾斜との交点

点11=8を通る水平線と9-10の交点

以上の衿断面図から8を通る衿付け円と11を通る衿外回り円の半径差を得る

Y=半径差8-11×円周率÷2

=1.5×3.14÷2

=2.36

図4 星野作図tの値算出図(公報第4図相当図)

点P、点T間の前衿ぐり線を延長し前中心線Fに終わる身頃衿ぐり円を描き、終点をNとするとき、

点D=上がり前端線と衿折り返り線3との交点

点T=Dより前衿ぐり線Eに引いた接線との交点

点12=Tより衿折り返り線3に引いた垂線の足

片身衿ぐり線の長さE=G~P~T~N=26.0cm(実測値)

弧度区間の長さ =G~T=13.0cm(実測値)

t=(G~Tの長さ)÷(G~T~Nの長さ)=0.5

tY=0.5×2.36=1.18cm

従って、星野作図のtYの値

t×Y=0.5×2.36=1.18cm

一方、イ号製品のねかせ実測値から求めたtY相当値=1.2cm弱

図3のt、及び、図4のYからtYの値が1.2cm弱であることが算出される。従って、衿腰のスタイルを定めるtgを0.3cmにとれば、tg+tYの値は1.48cmとなる。

被告のイ号製品の衿巾のねかせ角の弧長の実測値1.5cmと、星野作図のtg+tY計算値1.48cmとの差はわずか0.02cmである。

製図用具はmm単位の目盛りであることや、衿をしめ、ピタっと肩に密着させるために、わざとねかせを1~2mm程度少なくする等の操作も可能であること(従来技術の衿のねかせは基本12゜を中心に-2゜~+2゜の範囲で操作される)等を考慮すれば、1mm以内の差ならば殆ど同一であると言える。故に、イ号製品の衿は『星野作図で得られる衿』であり、本件特許発明の技術範囲に属する。

図1 イ号製品展開図

<省略>

図2 イ号製品弧長

<省略>

図3 Yの値算出

<省略>

図4 Yの値算出

<省略>

イ号図面

<省略>

特許公報

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例